2013年5月28日火曜日

研究成果論文が科学誌に受理されました!!(2013-02)

2013年5月28日

当研究室の研究成果が、研究論文として科学誌のPNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:米国科学アカデミー紀要に受理されました。
論文のタイトルおよび要旨は下記の通りです。


-Title-
Energy-dissipative supercomplex of photosystem II associated with LHCSR3 in Chlamydomonas reinhardtii


-Authors-
Ryutaro Tokutsu and Jun Minagawa


-Abstract-
Plants and green algae have a low pH-inducible mechanism in photosystem II (PSII) that dissipates excess light energy measured as the non-photochemical quenching of chlorophyll fluorescence (qE). Recently, npq4, a mutant strain of the green alga Chlamydomonas reinhardtii that is qE-deficient and lacks the ancient light-harvesting protein LHCSR3 was reported (Peers G et al. (2009). An ancient light-harvesting protein is critical for the regulation of algal photosynthesis. Nature 462(7272):518-521). Here, applying a newly-established procedure, we isolated the PSII supercomplex and its associated light-harvesting proteins from both wild type (WT) C. reinhardtii and the npq4 mutant grown in either low light (LL) or high light (HL). LHCSR3 was present in the PSII supercomplex from the HL-grown WT but not in the supercomplex from the LL-grown WT or mutant. The purified PSII supercomplex containing LHCSR3 showed a normal fluorescence lifetime at a neutral pH (7.5) by single-photon counting analysis but exhibited a significantly shorter lifetime at pH 5.5, which mimics the acidified lumen of the thylakoid membranes in high light-exposed chloroplasts. The switching from light-harvesting mode to energy-dissipating mode observed in the LHCSR3-containing PSII supercomplex was sensitive to dicyclohexylcarbodiimide, a protein-modifying agent specific to protonatable amino acid residues. We conclude that the PSII-LHCII-LHCSR3 supercomplex formed in the HL-grown C. reinhardtii cells is capable of energy dissipation upon protonation of LHCSR3.

PNAS誌における論文pdfはコチラ




内容解説

過剰な光エネルギーを消去する実体
光合成タンパク質超複合体を発見

本研究では、緑藻が光合成の許容量を上回る過剰な光エネルギーを安全に消去するために、特殊なタンパク質(LHCSR)を結合した巨大な光合成タンパク質超複合体を形成することを発見しました。本研究は、植物の細胞内で光エネルギーを消去する実体を初めて捕らえたものであり、これまで不明な部分が多く残されていた光エネルギー消去の仕組みの完全理解が期待されます。


-研究の背景-

自然環境は、自ら活発に動くことが出来ない植物にとって、時として非常に過酷な条件になり得ます。特に、植物が光合成を行うにあたって必要不可欠な光は、自然環境の中でも大きく、そして急激に変化します。このような光の変化の中でも、植物や光合成藻類たちは素早く、そして確実に適応して生き延びています。

これまでの研究から、光合成反応の現場である葉緑体の中では、光の変化に応じて、様々な生物反応がダイナミックに展開されていることが分かってきました。その中でも強い光、特に光合成の許容量を超えるような過剰な光から光合成器官を守るために、植物はqEクエンチングと呼ばれる『余分な光エネルギーを消去する』反応を駆動することが分かっています。

しかし、このqEクエンチングが『どこで』『どのように』行われているのか、これまで明確にした報告はありませんでした。


-研究成果の概要-

本研究では,単細胞緑藻であるクラミドモナスを用いて,余分な光エネルギーを消去している実体の解明を試みました。

最近の研究から、強過ぎる光を安全に消去するqEクエンチング反応には、LHCSRと呼ばれるタンパク質が深く関与することが分かってきました。本研究では、緑藻へ強い光を当て続け(図1)、qEクエンチングを駆動している細胞から、光エネルギーを消去する実体を捕えることに成功しました(図2)。


図1 クラミドモナスへ強光を照射する得津助教

それは、光合成反応の基幹部であるPSII-LHCIIと呼ばれるタンパク質複合体にLHCSRタンパク質が結合したPSII-LHCII-LHCSR超複合体であり、精製した超複合体を用いた試験管内での活性測定においても、実際の細胞内での反応と同様にpHの変化により、光エネルギーを消去することを発見しました。


図2 細胞から取り出した超複合体によるqEクエンチングの仕組み



-研究成果の詳細(詳しく知りたい方用:読み飛ばしても大丈夫です)-

光は、植物や藻類が行う光合成反応に必須の物質です。一方で、光合成反応に使う以上の光(強い光)は、光合成の基幹部(PSIIタンパク質複合体)を破壊し、細胞へ深刻なダメージを与える危険性があります。そこで、このような強い光の一部は、qEクエンチング反応により安全に熱エネルギーに変換され、消去されます

緑藻クラミドモナスでは、LHCSRと呼ばれるタンパク質が、qEクエンチングに関与すると考えられていますが、これまで細胞内のどこでqEクエンチングが起きているのかは分かっていませんでした。

今回の研究により、強光照射中の緑藻では、葉緑体中のチラコイド膜上に存在するPSII-LHCIIタンパク質複合体にLHCSRタンパク質が結合した巨大なPSII-LHCII-LHCSR超複合体が形成されることが分かりました。

さらに、qEクエンチングを引き起こすきっかけである『チラコイド膜内の酸性化』を模して、PSII-LHCII-LHCSRタンパク質超複合体を酸性溶液に入れたところ、照射した光エネルギーが消去されることが判明しました。

以上の解析結果から、強光で培養した緑藻から取り出したPSII-LHCII-LHCSRタンパク質超複合体こそが、これまで長らく実体が分からなかったqEクエンチング反応の場であることが明らかになりました。この成果は、初めてqEクエンチングを行うタンパク質超複合体を精製し、その特徴を明らかにしたものです。


-研究の意義と今後の展開-


今回の研究により、初めてqEクエンチングを行うタンパク質超複合体を捕えることに成功しました。今後はこの技術を用い、緑藻だけではなく、地球上に繁栄している陸上の高等植物や水中の様々な光合成藻類が、どのようなqE クエンチング装置を備えているのかを明らかにし、強光防御装置の進化を解き明かすことが可能になるでしょう。

また、qEクエンチング超複合体の詳細な解析を進めることで、光エネルギーの消去、つまりエネルギー損失の過程を明らかにし、より効率的に光エネルギーを利用可能な光合成生物の創成につながるものと期待されます。


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